公開や合否判定の結果を見て愕然としている人もいるかと思います。
A判定は取れたものの、本当に大丈夫なのか不安でしょうがないという人もいるかもしれません。
塾の模試はどこまで信頼できるのか、本当に信じていいのかと不安になっている人もいるかもしれません。
が、それはひとまず置いといて…。
今回は塾側から見た偏差値の話です。
偏差値は何のためにあるのか?
A判定の本当の意味は?
合格者を増やすために何をしているのか?
偏差値について
偏差値の仕組みがうまく理解できないという人もいると思います。
実際のところ、塾講師でもよく理解していない人がたくさんいます。
とりあえず、
・偏差値は高いほど良い成績である
・平均点が偏差値50である
・志望校のA判定偏差値を取れていればいい
・足りなければ努力が必要
などと言われています。
詳しく知りたい人は「統計学」というものを勉強してください。
標準偏差とか正規分布という単語を理解しておく必要があります。
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簡単に説明すると、偏差値というのは公開テストなどの塾のテストを受験している全生徒の平均点を基準として、平均からどれくらい離れているかを数値化したものです。
平均値を50として、成績が良いほど数値が大きくなります。
平均から離れるほどその人数の割合は小さくなります。
偏差値60ちょうどなら上から約16%の位置、偏差値70ちょうどなら約2%の位置にいることになります。
1000人が受けているテストなら、20位くらいで偏差値70、160位で偏差値60くらいになります。
※理論上の値です。
※実際のテストでは誤差が生じることがあります。偏差値70以上になるとかなり大きな誤差が出ます。
塾の偏差値表に載っている偏差値は、前年度の入試結果を基に算出されています。
基準となっているのは6年生(各生徒)の9月~12月の偏差値の平均値と受験校の入試結果です。
したがって、みなさんがこれから12月までに受けるテストの結果と入試の結果が来年の偏差値表に反映されることになります。
そういう意味では、8月までの結果は全く関係ないとも言えますね。
塾ではよく「どうやったら成績が上がりますか?」なんていう相談が来ます。
とりあえず頑張るしかないという趣旨の返答をする流れになっています。
しかし、塾の立場で考えた場合、成績を上げる方法というのは存在しえないのです。
というのも、基本的に全員に同じ授業をして、同じテストを受験させるわけです。
実際にはクラス帯が異なると授業のレベルは異なります。
ですが、集団授業である以上は同じクラスにいる生徒は同じ授業を受けています。
その中で特定の生徒だけ成績が上がるような指導方法はありませんし、あったとしたら(倫理的に)問題ですね。
逆に考えて、成績が悪かった生徒がそれを講師の指導力のせいにしたところで、同じクラスに良い成績を取っている人がいたとしたらそれは講師の指導力とは関係ないということになります。
つまりは各個人の努力の差が成績に出たと考えるのが極めて合理的ということです。
にもかかわらず、「頑張ったら成績が上がる」なんていうのは嘘ではないかと思うかもしれません。
仮に全生徒が同じように頑張ったとしたら、単純に平均点だけが上がり、偏差値はほとんど変動しないという結果になると思います。
ですが、実際には「全生徒が同じように頑張るなどということはないので、本気で頑張ったら成績が上がる可能性は高いと思われます。
でも、本気で頑張ったら成績が上がりそうな人ほど、本気で頑張る可能性は極めて低いというのが現実です。
ですから、講師が嘘をついているのではありません。
可能性(夢)の話をしているだけなのです。
A判定偏差値
多くの塾ではA判定=合格可能性80%としています。
これが毎年多くの誤解を生んでいると思うのですが、A判定偏差値ギリギリの人が80%の確率で合格するということではありません。
A判定偏差値以上の全受験者の約80%が前年度に合格したということなのです。
逆に言えば、合格者の割合が80%以上となる偏差値の最低値をA判定偏差値としたということです。
単純に考えてもわかると思いますが、A判定を取っている人が全員合格可能性80%であるというのはおかしな話です。
A判定偏差値を5ポイントくらい上回っている人と、ギリギリの人が同じ可能性であるとは考えにくいです。
80%合格というのなら20%は不合格になっているわけです。
どう考えてもA判定ギリギリの人の方が不合格になりやすいはずですね。
で、その平均が80%というのであれば、A判定ギリギリの人が合格可能性80%もあるはずがありません。
実際のところ、50~60%くらいだと思っていいでしょう。
もちろん、A判定ギリギリというのは9月~12月の平均値がA判定ギリギリということです。
その中には毎回A判定ギリギリという人もいれば、良いときと悪いときの差が大きい人もいます。
同じ平均偏差値の人でも合格不合格に分かれてしまいます。
どちらの方が入試当日に良い結果を出せるのか、それは運次第なのかもしれません。
そんなA判定偏差値ですが、塾にとっては全く違う意味を持っています。
例えば、合否判定とか志望校判定などのテストの場合、みなさんも志望校を書いたと思います。
志望校の判定を知りたいだけならわざわざ志望校を書かなくても、偏差値表を見れば誰でもわかります。
ですが、志望校を書けば志望者の人数やその中での順位がわかります。
塾としてはそこが一番知りたいのです。
要は志望校調査ですね。
例えば、灘中を志望している人が塾全体で100人いたとしましょう。
そのうちA判定を取っている生徒が50人だったとしましょう。
そうすると、確率的にその中の80%くらいが合格すると予想できます。
つまり、その時点で来年の入試では40名くらいの合格が見込めるということです。
次回のテストではその半数くらいが入れ替わるかもしれませんが、塾から見れば総数はほとんど変わりません。
B判定偏差値以上の生徒の人数を数えたら70名だったとしましょう。
そうすると、見込める合格者数は60%の42名です。
まとめると、だいたい40~42名の合格が出るだろうという予測が成り立ちます。
塾が頑張るのはこれからです。
仮に塾の合格者数の目標が50名だったとしましょう。
あと10名くらいは合格者が欲しいのです。
ではどうすればいいかというと、
・A判定以上を10名増やす
・B判定以上を14名増やす
という方法が考えられます。
これから生徒の指導に力を入れるとか、今から急に対策講座を増やすなんていうのは無茶ですね。
間に合うわけがありません。
そこで、どうするかというと、
・灘志望以外の生徒の中から引っ張ってくる
・塾外生を引き込む
といった方法が考えられます。
一番手っ取り早いのが、
・甲陽志望の生徒の中で灘A判定の子を見つけて灘に志望校変更するように説得する
・第一志望が東大寺で、統一日に星光を志望している生徒の中で灘A判定の子を見つけて灘に志望校変更するように説得する
などという方法です。
A判定を取れているけど自信がないから統一日の受験校を変更するという生徒が一定数います。
そういう子を10名集めれば確率的に8名は合格するという計算ですね。
もちろん、A判定ギリギリの子ばかり集めるともっと少なくなりそうですから、あまり無理には誘いません。
ですが、それをされると、甲陽コース、星光コースの講師は困ります。
予定している合格者数が減ってしまうからです。
そこでどうするかというと、灘C・D判定あたりの子に声を掛けます。
灘の判定は悪くても、甲陽や星光ならA判定を取れているわけです。
灘不合格になるくらいなら甲陽や星光に合格する方がいいと思ってくれたらWinWinですね。
(結果はわかりませんけど)
塾としては人数を確保すれば一定数は合格が見込めるので、誰が合格するかは関係ありません。
もちろん、現場の講師は一人でも多くの生徒に合格して欲しいと思っています。
ですが、全員合格なんていうのは志望者数を考えたら無理な話なのです。
もちろん全力で努力はしますが、その結果が今までの実績なのです。
そこは現実的に考えなければなりません。
合格率を上げたければA判定偏差値を高めに設定すればいいのですが、それだと受験者数が減ってしまいますから、合格者数もへってしまうでしょう。
その他に、首都圏、東海エリア、九州エリアなどから前受け受験をさせるというパターンもありますね。
元々灘を第一志望にしている人はすでに人数に入っているので、可能性のある生徒を一人でも受験させようと色々な手を使います。
宿泊費を負担したり、移動にバスを用意したりする塾もあります。
もちろん、その反対に灘合格者に東京遠征をさせたりもします。
他にも塾外生を引き込むという方法があります。
とはいえ、塾業界のルール(自主規制)があって、
・テストや講習会のみの生徒をカウントしない
・入塾手続きをおこなっていて、一定時間数の授業を受講している生徒をカウントする
ということになっています。
そこで、塾外生向けの少人数特別講座やWeb講座を開催し、特待生とか特別料金などの特典を付けたりして受講者を増やしたりするわけです。
明確なルールがある以上、ルールに則ってやっていることを咎められることはありません。
塾が合格実績にこだわる理由は、それが次年度の入塾者数に影響するからです。
入塾者数が増えれば当然利益は大きくなりますし、後の合格実績も増えるわけです。
それが続けば塾生数はどんどん増えていくという算段です。
これは私立中学でも同様で、大学実績が良ければ翌年の志望者数が増えるのです。
学校は定員があるので生徒数は増やすことが出来ませんが、志望者数が増えれば入試のレベルが上がります。
それだけ優秀な生徒がたくさん集まるということです。
そうすれば6年後の合格実績も上がるでしょう。
人気校になれば生徒募集も経営も安定です。
そうやって勝ち残った学校だけが少子化を乗り切れるのです。
「塾は合格実績のために生徒を特攻させる」なんていう都市伝説があります。
ですが、塾の立場からすると合格の見込みの低い生徒を何人も送り込むなんていうのは無駄でしかないのです。
そんなことをするくらいなら、志望校を適正なレベルに下げて全体の合格者を増やす方がよっぽどましなのです。
もちろん受験校を決めるのは各家庭ですが、塾はなるべく可能性の高い方向に誘導しようとしているのです。
それに乗っかるかどうかは各家庭の判断ですが、決して無茶を進めるなんてことはないのです。
そういう意味では塾を信じてもいいとは思います。
ただ、塾の中でも違う意見を持った講師もいて、お互いしょっちゅうぶつかります。
担当する科目が違えば生徒に対する印象も違いますから、個々の生徒に対する評価も微妙に食い違うことがあります。
心配ならコースを担当する複数の講師に意見を聞いてみるといいと思います。
チャレンジ受験をするなら必ず併願校を押さえるというのが塾の基本スタンスです。
これはどの講師でも同じようなことを言うと思います。
勧める学校は違うかもしれません。
でも、やたらと併願校を勧めてくるということはそこに合格できる可能性が高いと考えているからです。
同時にチャレンジ校は厳しいと考えているのだと思います。
講師は基本的に「これから成績が上がる」なんていうことは考えていないです。
確率的には極めて低いからです。
それよりもいかにして現状を維持するかを考えなければなりません。
生徒が油断して成績(合格実績)が下がったら、なんとなく講師が悪いみたいな空気になるからです。
よく「アドバイザー(担任)やお世話係の当たり外れ」みたいな話が出てきたりします。
好き嫌いといった好みはあるかもしれませんが、よっぽどトラブルでもないかぎり合否にはほとんど影響ないです。
相談したいことは正式に「教育相談」を申し込めばいいんです。
みなさんもよく考えて、判断して、行動してください。