よく記念受験という言葉を聞きます。
第一志望校に成績が届かず、でもどうしても受験をしたいというときによく使われます。
関西には自虐的なネタで笑いを取ろうとする文化が根付いているので、「どうせウチは記念受験やから」と割と軽い感じで言います。
合格できない可能性が高いとわかっていながらなぜ受験するのでしょうか?
記念受験の対象になる学校というのはだいたい偏差値の高い学校で、いわゆる最難関レベルの学校がほとんどでしょう。
例えば灘を例にとって考えてみましょう。
灘中の受験者数は毎年600人を超えますが、合格できるのは200名あまり。
実質倍率で考えるとここ数年で一番低くても3.4倍です。
点数分布は発表されていませんが、受験者平均点が合格者最低点より20点くらい低いですから、受験者の平均レベルの学力では合格はかなり難しいと考えていいでしょう。
偏差値でいうならA判定に4~5ポイント足りないくらいではないかと思われます。
ということは平均点ではC判定にも届いていないということになるでしょう。
きつい言い方をしますと、受験生の半分は記念受験ということになるのです。
灘中は統一日と翌日の2日入試で、同じ入試日程で最難関なら甲陽、星光、洛星前期などがあります。
ということは無理に灘を受けずに、実力で十分狙えるところを受験する方が可能性は高くなります。
例えば六甲後期、高槻中期・後期、洛星後期などを押さえに考えるくらいなら、そこを統一日に受験すればおそらく悩みの9割は解消されると思います。
東大寺、洛南切替専願などを押さえにしてのチャレンジというのであれば、それなりの偏差値をクリアしているでしょうから、記念受験というわけでもありません。
灘の場合、関東や九州から団体で受験しに来ます。
今年は早稲アカの集団がやたら多かったのですが、関東日能研、関東SAPIX、英進館、九州日能研などの集団がぞろぞろと入場していきました。
関東勢ならそのあと2月からの関東入試の前哨戦として、腕試しに来る人がほとんどなのでしょう。
東海地区は通学可能圏なので何とも言えません。
で、毎年40名以上の入学辞退者が出ているわけですが、彼らこそが本当の”記念受験”なのです。
近畿圏なら”前受け”とかお試し受験などと称して、岡山や四国の学校を受験します。
あるいは腕試しに特別給費の学校を受けたりする人もいるでしょう。
それけkkで特待生合格や上のコースでの合格が取れたら、記念受験と呼んでいいと思います。
落ちるのがわかっていて受験するという自虐的記念受験とは区別して考えた方がいいですね。
最も合格しやすい統一日を捨てて、受験料を無駄にしてまでなぜ自虐的記念受験をするのでしょうか?
”プライド”というよくわからない理由があります。
「結果は残念だったけど灘を受けた」という事実が欲しいのかもしれません。
それを聞いた人がどう思うかというと、ふつうは灘を受けるからにはそれなりの学力があって、それなりに見込みがあったからこそ受験したのだろうと推測するでしょう。
きっとたまたま運が悪くて合格できなかったけど、かなり優秀な子なのだろうと。
それを自慢に生きていく人もいるので、あまりイジメたらかわいそうですが。
あと一歩で届かなかった、と言われてもそれが人類にとってどれほど小さな一歩なのか、その人にとってどれほど大きな一歩だったのかは点数を聞かない限りわかりません。
5点差くらいまでなら本当に惜しかったと言ってもいいと思います。
それでも合格者平均とは30点以上離れていますけど。
で、けっきょく本人曰く「滑り止め」の学校にやむを得ず入学するわけですが、自分は灘を受験したのだからその学校を第一志望にしていた周りのみんなとは格が違うのだと主張したりするのです。
もちろん学年トップでも取れれば確かに格の違いは証明できるでしょう。
それならばそういう発言も納得です。
学校側もそういう生徒には慣れていると思います。
コースの分かれた学校であればとりあえずその子のプライドは傷つかずに済ませることができます。
学校に来なくなってしまったら大変ですから。
入学してすぐに宿泊研修みたいなことをやって周りにうまくなじませたりする学校もあります。
塾が併願校を勧める理由の一つに、同じ志望校別コースで第一志望に残念だった子が集まる学校に行かせておけばとりあえず何とかなるというのがあります。
少なくとも中学校で孤立しなくて済むわけですから、最初はお互いに傷を舐め合っていても、いずれリベンジをかけて頑張ってくれればいいといったところですね。
でもそれはそれなりに実力がある子の話です。
第二志望にも第三志望にも引っかからないケースもよくあります。
志望校が全部最難関レベルなら全滅もよくある話です。
こんなことなら統一日にここを受けておけば、というのは終わってからでないと理解してもらえないのです。
そこまでして守らなければならないプライドってなんでしょうか。
どこでそうなってしまったのでしょうか。
世間体を気にする人もいます。
小学校の周りの友達とかママ友に対して張り合っているのかもしれません。
でも、違う中学に入ってしまえば関係ないわけです。
むしろ、結果的に同じ中学になってしまう方が気まずくなる可能性もあります。
いや、それを想定しての記念受験なのでしょうか。
各家庭での思惑はいろいろあるとは思いますが、けっきょくは中学校に入ってから気分よくやっていけるのであれば何でもいいと思いますよ。
どうせならふつうに頑張れば学年上位に入れるようなレベルの学校に行くのが一番理想です。
大学受験を考えるのなら中学からの塾を探せばいいのです。
最悪のケースはどこにも合格できずに公立中学に進学するケースです。
せっかく何年も頑張ってきたのに、何一つうまくいかないまま終わるというのはダメージが大きいです。
親まで子育てに失敗したみたいな気分になってしまったら最悪です。
そのときはそのときで、「はい、次行ってみよう」と流せたらいいのですが。
さらに大変なのが、私立・国立の小学校からの中学受験で失敗するケースです。
最悪の事態に備えていればいいのですが、公立進学はきついです。
たまに合格したと嘘をつく子がいて、塾では大騒ぎになったりします。
塾が受験番号を控えるのはそういうトラブルを回避するためでもあります。
だいたいトラブルが発生するのは第一志望校の合格発表のあとです。
なぜ塾の先生が発表を見に来ているかわかりますか?
受かった子のお祝いをするためではないのです。
不合格だった子を落ち着かせて、次の受験校に向かわせるためなのです。
もし本命に不合格だったら、やはりかなりのショックを受けます。
その時点で併願校が合格していればいいのですが、まだ受験が残っていたらその凹んだ状態で入試に向かわせると大変です。
中には家に帰ってから暴れて、もう受験しないと言い出す子もいます。
そんなときのために塾ではアフターケア本部を作り、講師が待機しているのです。
で、それが記念受験とどう関係あるのかと思うかもしれませんが、衝撃の事実をお話ししましょう。
「記念受験」と言っている子のほとんどが、不合格になったと知るとショックを受けます。
泣き出してしまったり、怒り出して母親に当たったりします。
記念受験などと言いながら、本人は受かるつもりの「本気受験」なのです。
その横で親はどうしているかと見ると、親もショックを受けて落ち込んでいたりします。
「記念」どころか「ガチ本気」じゃないですか。
実力に見合わない無茶な受験をすることを非難しているわけではありません。
なぜ嘘をつくのか?と言いたいのです。
本気で目指しているのならそう言えばいいじゃないですか。
そうすれば塾でも、合格したかったらこれだけのことをやって来いとか、ここはこうしろとか言えるわけですよ。
だいたいそういう子は本気で勉強をしていません。
本気で勉強すれば、自分の実力もちゃんとわかりますし、どういうレベルの学校に行くべきかもわかるでしょう。
それにもっと早い段階で気付いていればひょっとしたら最難関校に行けたかもしれないのです。
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かつて塾の説明会で話したことを思い出しました。
6年の秋になると志望校判定書というものを出すのですが、当時は難関コースを担当していたので学校数があまりに多く、コースから出す判定書は学校名(コース名)を日程ごとに偏差値順に並べた一覧表に、青い線と赤い線をマーカーで引いたものを各生徒に送付していました。
で、青い線から下はセーフティーゾーン、つまり滑り止めの併願校として選択するのに適した学校ということで、だいたいその子の過去6ヶ月の最低偏差値のライン。
次に赤い線はその子の過去6ヶ月の最高偏差値のラインで、青い線と赤い線の間がチャレンジゾーン、つまり勝負校ということですね。
最後に赤い線から上、これがメモリアルゾーン。
と言うとだいたい皆さん笑ってくれるんですが、9月あたりに志望校のアンケートを取ると、半数以上の子がこのメモリアルゾーンの学校を目指しているんです。
そこから3ヶ月くらいかけてみんな目覚めていくんです。
どう目覚めるかは人それぞれですが・・・。
難関レベル(偏差値50台)の学校を目指すのなら今が勝負のときですね。
偏差値50台までは偏差値は勉強量にほぼ比例します。
偏差値を上げたければ単純な話、勉強量を増やせばいいんです。
最難関レベルなら最低でもその3倍くらいですね。