関東や東海の塾では考えられないことだと思いますが、
近畿圏の一部の塾では割と日常的に起きている出来事です。
一体どうしてそんなことおきたのかを説明しましょう。
まずは会話を再現してみます。
生徒「先生、この問題できひんかったらしんでもいい?」
講師「しんでもいいよ!」
生徒「やった~!」
生徒は大喜びです。
何がそんなに嬉しいのでしょうか?
近畿圏の一部と言いましたが、主に京都とその周辺でよく見られます。
ご存知のように近畿圏では関西弁という方言が使われております。
標準語と比べるとアクセントや語尾変化が異なるのが特徴です。
アクセントに関しては文章では説明しにくいので、語尾変化についてみてみましょう。
「できない」という言葉は「できる」の反対語です。否定形ではありません。
「でき・ない」の「ない」が関西弁では「へん」に変わります。
でき・ない⇒でき・へん
しかし、ここからさらに細かい変化をします。
「でき」のようにイ段で終わる動詞+「へん」のときは、「へん」⇒「ひん」と変化するのです。
つまり、「できひん」になるわけです。
イ段以外のときは基本的に「へん」ままです。
例 行かない⇒行かへん、やらない⇒やらへん
ところが、京都と大阪では変化の仕方が微妙に異なります。
京都では、できない⇒できひん なのですが、
大阪弁では「でき・へん」の「でき」が後の「へん」に合わせて変化します。
つまり、「でけへん」になるのです。
同様に、
行かない⇒行かへん(京都)、行けへん(大阪)
行けない⇒行けへん(京都)、行かれへん(大阪)
ちなみに動詞が1音節の場合は長音化します。
この場合、イ段⇒エ段の変化は起きる場合と起きない場合があります。
例)
しない⇒しぃひん(京都)、せぇへん(大阪)
来ない⇒きぃひん(京都)、けぇへん(大阪)
大阪で「こぉへん」というのもたまに聞きますが、関東弁の「来ない」につられて変化したと考えられています。
「ある」の反対語は「ない」ですが、関西弁で「ある」の否定形は「あらへん」になります。
「ある?」と聞かれたらたいてい「ある」・「あらへん」で答えます。
「ない?」と聞かれたときは「あらへん」、もしくはつられて「ない」と答えたりします。
口語ではしばしば撥音化が見られます。
つまり、語の一部が「ん」に変化する現象です。
例えば ~なくても⇒~んでものように変化します。
「て」は濁音化が起こり「で」に変わります。
しなくてもいい⇒しんでもいい(京都)、せんでもええ(大阪)
やらなくていい⇒やらんでいい(京都)、やらんでええ(大阪)
見なくていい⇒見んでいい(京都)、見んでええ(大阪)
変則(動詞の音が変化)
来なくていい⇒きんでいい(京都)、こんでええ(大阪)
(中略)
「できなかったらしなくてもいい」
という標準語が、
京都では「できひんかったらしんでもいい」
大阪では「でけへんかったらせんでもええ」
あるいはさらに短縮されて、
京都では「できんかったらしんでもいい」
大阪では「でけんかったらせんでもええ」
と変化するわけです。
京都弁「しんでもいい」のアクセントは”し”にあります。
疑問形だと語尾が上がります。
「死んでもいい」も同じアクセントです。
京都弁を知らない人が聞いたらびっくりしますね。
というわけで京都の教室では、
「しんでいい」
と言われたら生徒は大喜びするわけです。
私も初めて生徒から言われたときはドキッとしました。
「テストの点数が悪かったらお母さんに殺されるぅ~」とか言ってるからです。
でも、本当は宿題範囲は全部やった方がいいです。
宿題範囲でなくても、上のクラスに上がるつもりならやっておいた方がいいです。
でも、「そんなん無理や~」とか言われたらやっぱりこう言うと思います。
「しんでもいい!」